小児と高齢者、基礎疾患保有者がハイリスクである。
飲食物等で生菌を経口摂取することにより感染し、数日の潜伏期をおいて発症す る。その一般的臨床像は、発症初期には血性下痢は少なく、頻回の水様性下痢が一 両日続き、その後、大量の新鮮血を伴う血性下痢と激しい腹痛が起こる。このほか の症状としては、嘔気、嘔吐、風邪に類似した悪寒や上気道症状なども患者の20% 程度に認められる。
ただし、本症では他の多くの感染性腸炎と異なり、38℃以上の高熱を呈する例は十 数パーセントとまれである。
確定診断には便培養による菌の同定が重要である。これは抗生剤使用前でなければ 意味がない。抗生剤使用後や血性下痢の段階では菌の検出ができないことが多い。 その際の抗体検査については後述する。
止痢剤の投与は細菌の増殖を助長する可能性があるので行わない。
抗菌剤に関しては厚生省ではFOM(ホスホマイシン)を考えうる選択肢として提示し ている。FOMは大腸菌・ビブリオ・サルモネラなど夏期に感染の多い菌種に有効な ため、病名確定していない早期治療には多用される。しかしO-157感染症に関しては 抗菌剤の投与が有効である証拠はない。出血性の腸炎にまで進行した場合はプライ マリケアの限界を越えたと判断して専門医に紹介して欲しい。
溶血性貧血・血小板減少・急性腎不全を呈する溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併 した時が危険なので、貧血、乏尿、浮腫などには十分留意する。なお、下痢などの 症状が軽快した後、2週間はHUSを合併する可能性があるので、その点を考慮して フォローアップすべきである。
緊急検査としては一般検血、BUN, Cr, LDH, T-Bil, GOT, GPT, CRP,電解質が推奨され る。
BUN< 30だがLDH高め、血小板減少、白血球増加、CRP陽性、Bil増加、尿異常(蛋 白尿、血尿)がみられる場合は入院管理とする。 中枢神経症状(痙攣、意識障害)がある場合や、BUN> 30, Plt < 50,000, LDH > 1000 であったり、検査データの変化が急激ならば、HUSを発症している可能性が高 く、透析(できれば腹膜透析)を含めた集中管理の可能な病院へ三次搬送をおこな う。
溶血性貧血・血小板減少・急性腎不全を三主徴とする症候群で、小児の急性腎不全 の原因として主要なものの一つである。
現在までのところ、兵庫県内での発症例はほとんど散発例である。神戸大学小児科 で経験した過去の症例 男子15例、女子14例の計29例について全て散発例で あったが、兄弟の同時発生が二組認められた。平均年齢は4.3歳で、下痢などの消化 器症状出現からHUS発症までは平均5.4日であった。
発症は夏期に多いが、一年中いつでも発症しうることに留意する必要がある。
ベロ毒素が血管内皮細胞にダメージを与える。レセプターを介して内皮細胞に蛋白 合成障害を起こす。腎血管の内皮細胞・脳血管の内皮細胞にレセプターが多く、こ の領域に感受性が高い。
内皮細胞が剥がれてそこに血栓を形成して血小板を消費、さらに血管狭窄により赤 血球が物理的溶血を起こす。このようなmicro angiopathyにより、急性腎不全や意識 障害や痙攣等の中枢神経症状を起こす。
この両者は発症の背景は全く異なり、治療方針も異なるため、鑑別が必要である。
非典型的HUSは消化器症状を欠き、遺伝的な要因や再発を認めることがあり、組織 学的には、腎内細血管の閉塞を示す、いわゆる血管型を呈し、末期腎不全となる可 能性が高い。
一方、O-157などの腸管出血性大腸菌感染症に続発する典型的HUSでは、腎内細血管 の病変は見られず、糸球体だけに病変を認める、いわゆる糸球体型であり、無尿期 間が一ヶ月ほど続いても完治した例もあり、基本的には、腎機能は正常にもどる。
体重、血圧、心胸比(CTR)などを測定し、ボリュームオーバーロードに注意しつつ、 輸液による脱水の補正を行うとともに、フロセミドの大量静注による利尿を試み る。この治療のみで、透析に至らず軽快する場合もある。
BUN > 100 mg/dl, Cr > 8 mg/dl, HCO3 < 12 meq/L, K > 7 meq/L、鬱血性心不全、 高血圧
以上のいずれかを認める場合などが対象となるが、検査データは上記の基準以下で も、乏尿、無尿が持続する場合や、痙攣、意識障害などの中枢神経症状を認めた場 合には、躊躇せず透析導入する。
透析方法は、腹膜透析が安全であり、体重20キロ以下の場合、腹膜透析が絶対適 応となる。
血液透析は脳圧を亢進させ、抗凝固剤を使用するため、出血傾向を助長し、中枢神 経症状を助長する可能性がある。ただし、腸管浮腫が高度で腹膜透析を試みてもう まく行かない場合などは血液透析をせざるを得ない。
新鮮凍結血漿輸注や血漿交換は中枢神経症状がある場合には適応と考えられる。Hb は上げすぎない方がよく、7-8 g/dlに保つ。5 g/dlを切ったら輸血適応と考える。血 小板が相当減っても血小板輸血は基本的にしない。
血圧測定を行い、Ca拮抗剤を基本とし130/90mmHg以下を維持する。水分貯留を伴 う高血圧は透析療法を要する。
頭蓋内出血を起こさぬよう、高血圧、血小板減少に留意しつつ対処する。経過中の けいれん発作、脳症はHUSの合併症のひとつである。けいれん重積例には抗けい れん薬(ジアゼパム、フェニトインなど)、脳圧降下剤を使用する。必要ならば、 人工換気療法を施行した上で、チオペンタールナトリウムなどの超短期型バルビツ レートも投与する。
神戸大学医学部では過去に29例の消化器症状を伴うHUSを経験し、幸 いにも全例生存している。29例中8例に中枢神経症状が出現し、その 一例に重篤な後遺症(IQが60となった)を残したが、典型的HUSは概 して維持療法のみで治療可能であり、比較的予後良好な疾患と考えてい る。後遺症の防止という側面も含めて、治療についての経過と指針を提 示したい。
家族歴既往歴なし
お祭りでソフトクリームを食べた。
翌日朝から軟便となり、二日目から激しい腹痛と血性下痢となり、翌日、近医にて 輸液と止痢剤の投与を受ける。三日目に傾眠傾向が現われ、入院・輸液受けるも排 尿が無く、BUN Cr上昇、血小板減少、溶血性貧血を認め、HUSの診断にて当院転送
入院時の現症は意識レベル傾眠、皮膚乾燥、出血斑なし、心肺正常、腹部平坦、拡 張期血圧はやや高かった
検査データ:WBC 7,900, Hb 8.0, Plt 30,000, 破砕赤血球を認める、CTR51.2%、低蛋 白血症の傾向、BUN130, Cr5.7, GOT, GPTやや高い、LDH6,540
便培養は陰性で血清抗ベロトキシン1抗体陽性、血清抗O-111LPS抗体(病原性大腸 菌O-111の表面抗原に対する抗体)が陽性であった。
傾眠傾向と痙攣が見られたため直ちに腹膜透析を導入するとともに、新鮮凍結血漿 の輸注を一週間行った。徐々に血小板とLDHが正常化したが、乏尿が約一ヶ月続い たため開放性腎生検を実施したところ、糸球体は腫大、係締壁の二重化、メサンギ ウム増殖、融解像もみられた。細血管に関しては変化はなく、いわゆる糸球体型 HUSであり、予後良好と考えられた。腎生検後すみやかに利尿がつき透析離脱、現 在は通常の生活を送っている。
このような典型的HUSは糸球体病変のみだが、消化器症状のない非典型的HUSでは 血管内皮細胞の増生や血栓形成により、細血管の閉塞が生じ、血管型と呼ばれる。
血管型は成人型のHUS/TTPによく見られる組織像で概して予後は不良である。
また、典型的HUSでも、まれに腎皮質壊死が生じ、このような場合には末期腎不全 となる事が多い。
家族歴既往歴なし
感染経路不明
突然血性下痢、嘔吐で発症し、近医で輸液をうける。二日たっても腹痛、血性下 痢、嘔吐が持続したが、貧血や血小板減少は認めなかった。輸液・抗生物質で対処 するも、三日目に数分間の全身性間代性痙攣、傾眠傾向を示し、貧血、血小板減 少、LDH上昇、腎機能低下を認め、当院転送となる。転送時の意識は痛覚に反応す る程度で、痙攣重積状態だった。皮膚は乾燥し、出血斑はなく、心肺正常、腹部平 坦、拡張期血圧やや高く、白血球増多が著明(29,100 -著明な白血球増多は予後不良 のサイン)
Hb8.0, Plt30,000 破砕赤血球を認め、CTR50%、低アルブミン血症、BUN50、 Cr3.0、LDH>6000、Na129(低ナトリウム血漿の場合、痙攣が多い)血清抗O- 111LPS抗体陽性であった。
腹膜透析を導入し、新鮮凍結血漿の輸注を行った。痙攣頻発し、四日目には呼吸停 止の状態となり、人口換気療法を施行、超短期型バルビツレートで痙攣を抑制する とともに脳浮腫対策をとる。その後、LDHは減少、血小板は増加に向かい、数日で 人口換気から離脱、意識障害の改善に続いて腎機能も改善し、透析離脱する。ただ し、経過中に多発性脳梗塞を起こしたものと思われ、現在、IQ-60と知的障害が残っ た。
家族歴既往歴なし
発熱、食思不振 嘔吐 軟便により、近医受診。しかし明瞭な血便はなし。下痢が おさまって一週間近くたって水分摂取不良、顔色悪いため再受診。
BUN106 Cr3.9 Hb7.3 LDH7,300 Plt50,000のため入院後、当科転院。
意識レベルは正常だが、顔面浮腫を認め、血圧はやや高い。
入院時検査でWBC11,000 Hb 7.0 Plt40,000 破砕赤血球を認め BUN99 Cr 4.7 LDH7,000 低Na血症を認めるも神経症状無し 血清抗O-157LPS抗体陽性 血清抗 ベロトキシン1、2抗体陽性
腹膜透析のみで数日で利尿があり、血小板、BUN、Cr、LDH改善し透析中止 退院 後も後遺症無し。
抗VT抗体と抗大腸菌LPS抗体の関係に関しては国立小児病院の竹田多恵先生に依頼 して調査した。消化器症状を示すHUSと大腸菌関連抗体の陽性率については、
20例中12例が 抗O-157LPS抗体陽性 他の7例で抗O-111LPS抗体陽性あるい は抗O165LPS抗体陽性。9割がベロ毒素陽性であった。
詳細に関しては神戸大学医学部
小児科病棟医長 飯島一誠 まで
電話078ー341ー7451